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祖母との時間 コタのオフタイム20190608

2019.6.9.(日)

別れ際に 「またねぇ!」とはっきり言った

それまで ずっとつぶやいていたのは
不可思議な言葉だったので
とてもはっきりした言葉に
病室にいた介助員さんも驚いていた

そして わたしは「あかねぇ!」と自分の名前を呼ばれた 気さえして
そのはにかんだ笑顔が嬉しかった

​​今日は 大切な友人の 新生児の撮影だった
行きの車で母からLINEが入り
祖母の病状が悪化しているため
養護老人施設から 病院に移った と 連絡が入った
撮影が終わって病院名を確認すると
お邪魔したお宅から車で2分のところだった

私は何かに導かれるように 車を走らせた

暗い病院に入ると何人もの老いた方々が
ベットに横たわっていた

祖母の部屋に案内されると
立ち上がって転んでしまわないようにと
身体をベルトで固定されていた

そして 15年前フィリピンから来たという 気さくな介助さんや
孫の私に食べさせてもらう 夕食を
祖母は拒んで ほとんど食べようとしなかった

じつはしばらく会えていなかったのだけど
久しぶりに会った祖母はとても老いていて
複雑な気持ちになった

私のことをだれか認識できないのは 前からだったけど
もう少し会話がなりたっていたのだ

それでも空(くう)を見つめる
彼女の澄んだ瞳は変わらず美しかった

​​

少しでも意識があるうちに
少しでも幸せだった記憶を呼び覚ましたくて

私は 祖母が得意だった 手料理の話をした

とんかつ、春巻き、煮込み魚、きんぴらごぼう ぬか漬け、大根の味噌汁、鶏そぼろ
どれも本当に美味しかった

幼い頃、妹の入院中に 祖父母の家に預けらたり
共働きでお迎えの難しい両親に代わってお迎えしてもらっていた私は
礼儀や所作 物事の捉え方など 手遊びや行事について
たくさんのことを祖父母に 教わった

戦前戦後の 激動の時代を生き抜いた 奥ゆかしい彼女は
いつでも夫をたて
自宅にたくさんの人を呼んで
囲碁を打ったり 文学書を読み解いたり 映写機でポジフィルムの上映会をしたりと
文化活動が大好きだった祖父の 招くお客様を
美味しい料理で もてなすことを とても大切にしていた

その家は地域の人が集う 小さなサロンのような場所で
いつお客様がお見えになってもいいようにと
家のなかはとても綺麗に整えられていて
小さな庭にはたくさんの季節の花が咲き誇っていた

時には 50〜60代のおじさまおばさまが わいわいと10人以上で食卓を囲み
時には 突然訪ねてきた職場の元同僚に
せっせと手間ひまかけた手料理を振る舞う
祖母の姿は 当時の私から見てもとても魅力的だった

今でもしっかり鮮やかな記憶に残っている

その彼女が今 目の前で
静かに “待っている” ようだった

私は何度も手を握った
すると どこかに連れていってくれると
思ったのだろう 体勢を変えて介助ベッドから
両足を投げ出し 部屋の外を指差した

「今日は一緒にいけないのごめんね」 と伝え
祖母の手を強く握った

そして祖母を抱きしめた
私と触れた祖母の頬は
90代とは思えない つやつやの頬だった

「綺麗な頬っぺたね」 と触れると
ふふ と嬉しそうに はにかんだ

​​

私は帰りの車で 一人 思いっきり泣いた
にじんだ信号機やテールランプの光を眺めながら
祖母との出来事を一つ一つ手繰り寄せていた

90年生き抜いた祖母の 過去のつまった身体と
生後2週間の新生児ちゃんの 未来のつまった身体の
その両方の ぬくもりが この手に残っていた

何億光年という広大な宇宙の時間のなかで

人間が生きられるのはせいぜい 100年で
だけどそれを必死に生き抜いている

私はあと何年生きるだろう
どうやって死を迎えるだろう

祖母の透きとおった瞳を見ていると
私は鏡を見ているような気さえしたのだ

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